妊娠・出産にはたくさんのホルモンや栄養素が関わっています。健康で元気な赤ちゃんを産むためには、そのホルモンや栄養素のバランスが大切です。そのため、妊婦に良いとされるサプリメントが話題になることもしばしば。

今回は、中でも注目の栄養素「葉酸」の摂取について解説します。

葉酸不足が招く怖い病気

妊娠初期の葉酸不足が招く神経管閉鎖障害

葉酸の不足が一因といわれる、最も恐ろしい病が神経管閉鎖障害です。神経管閉鎖障害は、妊娠4~5週におこる先天性異常です。神経管は、受精卵が細胞分裂を繰り返し、胎児になる過程でできる中枢神経系(脳や脊髄)や目になる細胞の集まり。神経管の上部は膨らんで脳や目のもとになり、下部は脊髄のもとになります。

本来、中枢神経系は骨で覆われているものですが、神経管の閉鎖障害がおこると中枢神経系は覆われず露出したままになります。つまり、脊髄や脳が骨に覆われていない状態に。

神経管の下部で閉鎖障害が起きた場合、「二分脊椎」といいます。脊髄が露出した状態になるため神経に障害が起き、下肢の運動障害や膀胱・直腸などの障害がみられます。

神経管の上部で閉鎖障害が起きた場合、「無脳症」呼ばれます。脳に形成不全が起こり体は成長しますが、頭部が形成されなくなります。額から上の頭蓋骨が形成されず、眼球の突出や欠落、口蓋裂を伴うこともあります。胎児期は生命を保てることもありますが、死産となることも少なくありません。もし、心臓が動いて生まれてきても短時間で死に至ってしまいます。そのため、人工中絶という方法がとられることが一般的になっています。

アメリカをはじめとする諸外国では「葉酸」は妊婦の常識

神経管閉鎖障害の一つ、二分脊椎の発生頻度は民族差があります。1970年代の調査では、日本は1万人に2~3人程度でしたが、アメリカでは1万人に7人、イギリスでは15人と多くなっていました。この二分脊椎を防ぐ方法として、アメリカは1998年、パンやシリアルといった穀類加工食品に100gあたり140㎎の葉酸の添加を義務付け成果を上げました。その政策は世界に広がり、オーストラリアやカナダ、メキシコ、チリなど世界40カ国以上で、今や葉酸摂取は妊婦および妊娠可能な女性の常識になっています。

日本でも増加傾向にある二分脊椎

平成11年度の厚生科学研究において、日本でも二分脊椎が増加傾向にあることが確認されました。今や、赤ちゃん1万人に6人が二分脊椎といわれています。これらを受けて、ようやく2002年から母子手帳に葉酸の必要性が記載されるようになり、日本でも常識になりつつあります。

その他、葉酸不足はこんなことにも影響が

葉酸は造血作用に関係していることも知られ、不足すると悪性貧血を招くおそれがあります。狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、脳卒中などのリスクも高まるといわれています。また、胎児発育不全、流産、死産、妊娠高血圧などの一因が胎盤の血管障害であることから、葉酸との関連性が研究されています。

特に葉酸を摂取したい時期

上記のように、葉酸は造血作用にかかわることから、生理などにより貧血になりやすい状態にある女性は日ごろから摂っておきたい栄養素です。加えて、赤ちゃんの神経管閉鎖障害を予防するには、妊娠前からの摂取が大切です。

神経管閉鎖障害が起きるのは妊娠4~5週ごろ。そして、一般的にママが妊娠に気づくのは妊娠2カ月~3カ月(4週~11週)あたり。そう、妊娠に気づいたころには神経閉鎖障害の発生時期を過ぎてしまっているのです。このため、妊娠する可能性がある人、妊娠を希望する人は、日ごろから葉酸を摂取しておくことが大切なのです。

特に、意識して葉酸を摂取したい時期は妊娠前~妊娠3ヶ月ごろまで。あとは食事のバランスなどを気をつけることで、十分対応できると考えられています。

葉酸を知ろう!

葉酸はビタミンB群の一つ

葉酸はビタミンM、ビタミンBg、プテロイルグルタミン酸とも呼ばれる、ビタミンB2ビタミンB群に属するビタミンです。アカゲザルの血球欠乏症を治療する因子として、ホウレンソウの葉から発見されました。水溶性ビタミンで、体内ではDNA・RNAの合成や造血作用にかかわります。約50%が肝臓に存在し、残りは細胞分裂が盛んな組織に多く存在します。

葉酸の特徴

水に溶けやすい水溶性です。アルカリ性の環境では熱で安定し、酸性の環境では熱に弱い特徴を持ちます。また、光や酸素に弱い性質があります。

効果的な葉酸摂取の仕方

葉酸が多く含まれる食品

葉酸を効果的に摂取するためには、葉酸を多く含んでいる食品を意識的にとることが近道です。そこで、葉酸を多く含む食品を調べてみました。なお、あまり身近ではない食品は、葉酸をたくさん含んでいても、摂るのが大変ということで省きました。

食材 含有量
ホウレンソウ 2株に126㎍
アスパラガス 3本に114㎍
春菊 3株に114㎍
ブロッコリー 2房に105㎍
マンゴー 半分に76㎍
イチゴ 中5粒に68㎍
枝豆 100gに260㎍
調製豆乳 1カップに62?
鶏レバー 50gに500?
牛レバー 50gに405㎍
豚レバー 50gに205㎍

※レバーはビタミンAの含有量も多く、妊娠中は過剰摂取に注意が必要です。また、日本茶(粉末)にも葉酸が含まれていますが、抽出すると含有量が大幅に減ってしまうのと、カフェインを含むので、妊娠中は不向きと考えられます。

十分食事からとれるのでは?

厚生労働省発表の葉酸における成人推奨量は一日240?ですが、妊娠中の二分脊椎などを予防するためには一日400?必要といわれています。

葉酸が多く含まれる食品とその含有量を見ると、一日400?の摂取はそれほど難しくないように見えるかもしれません。しかし、保存や調理の過程で葉酸が失われてしまう可能性があり、食事から十分摂取しているつもりでも不足している恐れがあります。さらに、平成14年の国民栄養調査によると、妊娠・出産期にある女性の一日あたり葉酸摂取量は200?台という結果に。

一般的な健康維持を考えれば、食事のバランスに配慮することで足りるかもしれません。しかし、二分脊椎などの病を防ぐための摂取量を確保するという点では、食事だけに頼るのはおすすめできません。

食事から葉酸を効果的にとる方法

妊娠を考えると食事からの葉酸摂取では不十分かもしれませんが、栄養摂取の基本は毎日3度の食事ですから、食事から葉酸を効果的にとる方法を探してみましょう。

調理法で気をつけたいのは水や熱。葉酸は水溶性ですので、茹でると相当量が失われるといわれています。葉酸がたくさん含まれている緑の野菜の含有量は、茹でるとアスパラは90%に、ブロッコリーは60%に、ホウレンソウは40%になってしまうそうです。よって、茹でる場合は、スープとして茹で汁まで摂取するのがおすすめです。

調理の熱や水で葉酸が失われてしまうので、そのまま食べられる食材はおすすめです。フルーツや豆乳など。緑の葉物も、春菊など新鮮なものは生でも食べられます。

保存で気をつけたいのは、酸素・光・熱。買ってきたら食材を素早く密封し、冷蔵庫に入れ鮮度を保ちましょう。この方法で、とりあえず空気に触れるのを抑え、光や熱を避けることができます。

他の栄養素との組み合わせもポイントです。ビタミンB12は葉酸とともに赤血球を作る働きを持ち、どちらが欠けても十分な力を発揮できません。ビタミンB12は動物性食品に多く含まれますので、合わせてとるとよいでしょう。ビタミンCも葉酸と一緒に取りたい栄養素です。葉酸はビタミンCにより活性化され、体内で効率よく効果を発揮します。

サプリメントを上手に活用しよう

いくら食事に配慮しても、十分な葉酸を摂取できているか分かりません。確実に摂取する方法として、サプリメントの活用をおすすめします。

イギリスで行われた研究では、サプリメントと葉酸を添加した食品を摂取した場合は、赤血球中の葉酸濃度上昇がみられ、葉酸の多い天然食品の摂取とバランスの良い食事指導では効果がはっきりしないことがわかりました。加えて、葉酸先進国であるアメリカでは神経管閉鎖症予防には、食事に加え栄養補助食品から一日400?の葉酸摂取がすすめられていることから、サプリメントの高い効果が期待されます。

サプリメント活用の注意点

葉酸における過剰摂取の被害は明らかになっていませんが、摂取者の発熱やじんましん、生まれた子の喘息などが報告されています。また、過剰に摂取するとビタミンB12欠乏症の診断を困難にすることから、一日あたり1,000?を超えて摂取しないほうが良いとされています。

葉酸の効果は世界も認めるところ。せっかく赤ちゃんを授かったのに先天性病などの恐怖を抱えていては、理想的なマタニティーライフはおくれません。安心して出産に臨むためにも日ごろから葉酸を意識して摂ることをおすすめします。