近年、不妊治療や体外受精を行う前の卵巣予備能を知る方法として、AMH測定という検査が用いられるようになりました。簡単にいうと、卵巣の中にどのくらい卵子のストックがあるのかを測定する検査です。
女性の卵子は1度作られたら増えることはなく、卵巣に保存してある状態で、歳を重ねるにつれその数は減っていきます。高齢になるほど卵子の老化も進み、妊娠は難しくなる傾向があります。AMH測定は、妊娠を望む女性にとって、これからの妊活や不妊治療の目安となる大事な検査。
今回はそのAMH測定に関する情報をまとめてみました。
AMHとは?
AMHとは「アンチミューラリアンホルモン」の略で、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンのことです。
卵子はお母さんのお腹の中にいるとき、つまり胎児の頃に作られ、その後新しく作られることはありません。このときに作られたものを原始卵胞といいます。初経の頃から原始卵胞は活発化し、ある成長過程を経て排卵が起こるようになります。
卵胞の成長過程
原始卵胞→発育卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞→成熟卵胞
この過程を経て、約6ヶ月かけて排卵します。
AMHは、この「前胞状卵胞」から分泌されるホルモンをさし、血液検査でこのホルモンを測定することによって、現在卵巣にどれだけの卵が残っているかを推定することができます。
AMHが高いほど、卵巣内に成長途中の卵子がたくさんストックされているということになります。
「AMHが低い=妊娠できない」ではない
AMHが低いと妊娠率が下がってしまうのでは、と考えてしまいがちですが、そうではありません。
AMHはあくまで卵巣内の卵子の在庫数を示すもので、卵子の質を表すものではないということ。妊娠するために重要なのは卵子の質であり、卵子が少なくても質が良ければちゃんと排卵して妊娠・出産することができます。
卵子の質を一番反映するのは実年齢で、年齢が高くなるほど卵子の老化が進み、卵子が順調に育つことが難しくなります。逆にAMHの値が高かったとしても、卵子が老化して質が下がってしまっていると妊娠しづらい、ということになります。
※関連記事:リスクをきちんと受け入れる。高齢出産を正しく理解しよう
同じ年齢でも個人差がある
AMHの値は、年齢とともに減少する傾向にあります。年齢別で値をみると、20代と比べて35歳以上になると半分以下に下がり、40歳以降ではさらに半減します。
しかし、若い人でもAMHがかなり低い人や、高齢でも数値が高い人もいたりと、その個人差はまさに千差万別。数値の基準値というものを設けられないほどだそうです。
この個人差に合わせた不妊治療ができるということも、AMHを測定することによるメリットのひとつです。
AMHの値が低いといわれたら
AMH測定で分かるのは、卵子のストック数であり、質ではないことをお伝えしました。ではAMHが低いと分かったときにどのような受け取り方をし、どのような行動をとるべきなのでしょうか。
不妊治療前にこの検査をすることで、残っている卵子の数を受けて、今後どのような治療をしていくかを判断する目安になります。
体外受精や不妊治療のスピードアップも
例えば、AMHが低く卵子のストック数が少ないことが分かれば、今ある卵子を活用できるような治療法として、体外受精などの治療を検討することができます。
また、卵子のストック数が少ないということは、不妊治療に利用できる卵子の残りが少なくなっているという知らせであり、不妊治療自体ができる残り時間が少ないとも考えられます。そのため、治療のスピードをあげることや、タイミング法から体外受精に早めに切り替えるなどの対処が生まれてきます。
AMH値が高すぎる場合も注意が必要
AMH値は低いことばかりが気になりがちですが、高すぎる場合も注意しなければなりません。
AMHの値が4.0~5.0/ml以上ある場合は、「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」になる可能性があります。これは、排卵が阻害され、卵巣内に育たない卵胞がたくさん溜まってしまい、月経異常や不妊の原因になるものです。また、体外受精などに用いる排卵誘発剤に過剰に反応して、たくさんの卵胞が発育して卵巣が腫れてしまう「卵巣過剰刺激症候群」にもなりやすい傾向があります。
いずれの場合も医師の判断で状態に適した薬物治療などが行われますが、AMH値がわかることでこうした症状の早期発見にもつながりますので、高齢の方に限らず積極的に測定することをお勧めします。
※関連記事:https://midwife-maizo.com/jyunnbi/ikuji292/
おわりに
FSHなどの月経周期に依存するホルモン検査と違い、AMHは月経中に限らずいつでも正確に測定することができる血液検査です。
先述のように、卵子は新しく作られず、長い年月をかけて減っていくものです。その卵子のストック数も実年齢で考えるより個人差が大きく、いざ子どもが欲しい、不妊治療をしたい、と思ったときに卵子が残っていないということが起こりえます。AMH測定によって卵巣予備能を早く知ることは、そういった事態を避けるためにも大変有効なのです。
女性の社会進出が進み、かつてより結婚・出産をする年齢が上がってきていますが、生殖に適した年齢というものは昔と変わりません。それどころか20代、30代で閉経を迎える女性も少なくないのが事実です。
AMH測定で卵巣予備能を知ることは、女性の結婚・妊娠・出産の人生設計を見直すことでもあります。実年齢や見た目が若いからといって、卵巣年齢が若いとは限りません。妊娠を望む女性は、何よりも卵巣年齢のチェックを優先しましょう。