不妊症と密接な関係にあるのが、加齢による卵子の老化。テレビで紹介されたことで一般的にも認知されるようになりましたが「卵子も老化する」という事実には、衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。
しかし、その卵子の老化を防ぐ方法として、ミトコンドリアを元気にすることに着目し、研究を重ねる医師が増えています。ミトコンドリアは私たちの健康維持にかかせない小器官ですが、どんな働きがあるかまではご存じない方も多いかもしれません。
今回は、ミトコンドリアの健康が妊娠を望む女性にとっていかに大切かをご紹介していきます。
ミトコンドリアは私たちのエネルギーのもと
人間のすべての細胞のなかに存在するミトコンドリアは、さまざまな役割を果たしていますが、中でも一番重要なのが「エネルギーをつくり出す働き」です。細胞の動きは、ミトコンドリアの量や質によって決まってくるといえます。
このミトコンドリアは、年を重ねることによって量が次第に減っていきます。それが、私たちの老化を進めることにもなり、卵子の老化にもつながってきます。
ミトコンドリアの数が不足したり、質が低下してしまうと、作られるエネルギーが不足してしまいます。少ないエネルギーは、呼吸や体温調節など、生きる上で最も必要な部分に優先的に使われてしまいます。それによって、若さを保つための機能や、遺伝子の修復作業などに充分なエネルギーが回されず、老いや体の不調を招いてしまいます。
つまり、ミトコンドリアの量や質をよくし元気にすることが、エネルギーを作る能力を高め、健康の維持につながるのです。加齢を止めることができない私たちの健康維持に、ミトコンドリアの活性化は欠かせません。
不妊症とミトコンドリアの関係
卵子の中にもミトコンドリアが存在しています。ここでも、他の各細胞と同じように卵子にエネルギーを生産、供給する働きをしています。
先ほどミトコンドリアの質や量の低下と老化の関係についてご紹介したように、加齢によって弱ってしまったミトコンドリアが、卵子へのエネルギー生産や傷ついた卵母細胞の修復をうまくできず、卵子の老化を招いてしまいます。卵子が老化してしまうと、卵子の質も低下してしまい、染色体異常を招きやすくなります。
受精卵が育たない、育っても着床できないなど、流産となってしまうケースも少なくありません。
卵子は生まれる前に卵巣内に生産され、その後新しく作られることはありません。閉経に向かい、毎月その数は減っていきます。元々約700万個あった卵子は、出生時には200万個となり、生理が始まる12歳頃には30万個にまで減ってしまうそうです。
この中のすべての卵子が排卵するわけではなく、およそ1%にあたる400~500個の卵子だけが排卵します。毎年約12回の排卵があり、年齢を重ねていけば、排卵できる卵子の残りの数は100個にも満たなくなっていきます。
▼関連記事:
リスクをきちんと受け入れる。高齢出産を正しく理解しよう
今持っている卵子の健康がいかに貴重なものであるかが分かりますね。そしてその卵子の健康を支えるのが、ミトコンドリアの働きなのです。
参考文献:“Mitochondrial fission factor Drp1 maintains oocyte quality via dynamic rearrangement of multiple organelles”(ミトコンドリア分裂因子Drp1は細胞小器官のダイナミックな再編成を通して卵子の質を維持する)
Osamu Udagawa, Takaya Ishihara, Maki Maeda, Yui Matsunaga, Satoshi Tsukamoto, Natsuko Kawano, Kenji Miyado, Hiroshi Shitara, Sadaki Yokota, Masatoshi Nomura, Katsuyoshi Mihara, Noboru Mizushima, and Naotada Ishihara
Current Biology 24: 2451-2458 (2014)
ミトコンドリアを自分で増やす方法
卵子のエネルギーのもとであるミトコンドリアは、年齢とともに数が減ってしまうことをお伝えしました。そしてミトコンドリアの量は、ある程度自分で増やすことができるということも分かっています。以下にいくつかその方法をご紹介します。
有酸素運動をしよう
ミトコンドリアを増やす方法として最も有効だといわれているのが、ややきつめの有酸素運動です。有酸素運動は、酸素を使って脂肪を燃焼するランニングなどをいいます。
普通に走るだけでは、体が脂肪を燃焼し始める有酸素状態に入るまでに、30分かかってしまいます。1時間走っても有酸素運動となるのは、後半の30分ほど。少しもったいない気がしますよね。そこで、早い段階で有酸素状態に入ることができる効果的なランニングの方法もご紹介します。
- 初めに30秒ほど小走りで走る。
- 脈が整うまで1分ほど歩く。
- また30秒ほど小走りで走る。
これを5分ほど続け、汗が出てきたら有酸素状態に入ったことになります。この状態になったら、30分ほどランニングかウォーキングをすればよいので、かなり効率がよくなりますね。
また、空腹でエネルギーが枯渇している状態で運動することで、ミトコンドリアが増えやすくなるそうです。運動する前はなるべく食事をとらない方が効果を得られます。
ランニング以外にもサイクリングや、赤筋を使うヨガや太極拳なども効果があるそうです。いずれも定期的に続けられるものが好ましいので、自分のライフスタイルに合った、継続できそうな運動を探してみてください。
背筋を伸ばそう
ミトコンドリアは、筋肉の中に多く含まれており、中でも姿勢を保つための筋肉である背筋と太ももにたくさん含まれているそうです。普段から背筋を伸ばすように気をつけ、正しい姿勢を保つように心がけることで筋肉が増え、ミトコンドリアを増やすことができます。
また、1分間の片足立ちも効果があり、バランス感覚も鍛えられます。その時も、背筋を伸ばして背中の筋肉を使っていることを意識してみてください。日頃から美しい姿勢で過ごすことが、ミトコンドリアを増やすことに役立つと考えてください。
空腹感が鍵!ゆっくり食べて、食べ過ぎない
空腹感を感じることが、ミトコンドリアを増やすことが分かっています。普段から食べ過ぎている、と感じている人や、早食いをしてしまう人は、腹八分目を基本にゆっくり噛むことを意識して食べ過ぎを減らしましょう。特に早食いは、老化を促進させる活性酸素をつくり出してしまうので、注意が必要です。
ミトコンドリアを元気にするといわれている成分(ピロロキノリンキロン)が多く含まれている納豆、豆腐、緑茶を積極的にとるのも効果がありそうです。
ミトコンドリアを増やすサプリメント
各健康食品メーカーなどから、ミトコンドリアの活性化に効果を発揮するサプリメントが出ています。医師に相談するなどして、自分に合った信頼できるサプリメントを飲んでみるのもいいでしょう。
卵子の健康にストレスは大敵
卵子の老化を防ぐ、ミトコンドリアの大切な役割やその活性化の方法などをご紹介してきました。仕事で忙しい女性の中にも不妊で悩む方は多くいらっしゃいます。過労やストレスも活性酸素をつくり出してしまい、老化を早める原因になってしまいます。
最後に
不妊症による悩みや不安は計り知れないものですが、どうかふさぎこまずに、体を動かし、よく笑い、たくさん睡眠をとる、そういったことがミトコンドリアを活性化させ、卵子の健康を保つために最も重要だと考えてください。