認知度がまだまだ低い『不育症』。

妊娠はするけれど流産や死産を繰り返し、生児を抱けない辛く悲しい悩みを抱えている女性も近年多くなってきました。

そこで今日は、不育症の原因と治療などについて詳しくご紹介いたします。

不育症とは

妊娠しても、流産や死産、新生児死亡などを繰り返してしまい、結果的に子どもが持てないという状態を「不育症」といいます。

望んで赤ちゃんを妊娠したとしても、全体のうち約10~20%の方は自然流産をしてしまうといわれています。自然流産の原因は偶発的な染色体異常によるものが多く、たいていの場合、たとえ一度流産してしまっても、次の妊娠では無事に元気な赤ちゃんを出産することができます。

しかし、不育症の場合、妊娠しても複数回流産や死産を繰り返してしまうのです。

学会でもいまだ何度流産を繰り返せば不育症と定義できるかは明確には決まっていないのですが、一般的には2回以上連続した流産、もしくは死産があれば不育症と診断され、原因の究明がおこなわれます。

また、その妊娠は初めてのものである必要はなく、例えばひとり目の子どもは正常に生まれてきたけれど、ふたり目・3人目は続けて流産や死産になってしまったという場合には、続発性不育症として検査や治療を行う場合もあります。

流産を2回繰り返すことを「反復流産」、3回以上繰り返すことを「習慣流産」とも呼びますが、これらは不育症とほぼ同じような意味で使われる言葉です。

不育症は、この「反復流産」「習慣流産」にくわえ、妊娠22週以降の「死産」、生後一週間以内の「新生児死亡」も症状のうちに含むので、反復流産や習慣流産よりさらに幅広い意味で使われている言葉となっています。

不育症の場合、妊娠は普通にできるのですが、そのたびに流産や死産を繰り返してしまいます。

不育症と診断されている方のうち、約80%がその後無事に出産できているというデータもあり、これから考えてみると、流産や死産を繰り返しているのは単なる偶発的なものである場合がほとんどであり、妊娠自体は問題なくできる、出産も条件がきちんとととのえば大丈夫、ということになります。

妊娠自体ができない不妊症とは全く異なる種類の病気ですし、不育症と診断されたからといって赤ちゃんができないわけでもありません

不育症の原因

妊娠初期に流産してしまう原因のほとんどは赤ちゃん自身の染色体異常です。妊娠するたびに偶然が重なり、2回以上流産してしまうということもじゅうぶん考えられますし、実際その可能性が一番高いと思われます。その場合、不育症と診断されても具体的な治療はできません。いわば起こるべくして起こってしまう流産なので、防いだり治療したりといったことが不可能なのです。

不運にも偶然が重なって2回以上流産を繰り返してしまった場合、その後普通に妊娠・出産できる可能性がかなり高いです。しかし、流産を起こしてしまう原因がなんらかの病気にあるとすれば、それを解決する・もしくは妊娠や出産に影響が及ばないよう防ぐのが不育症治療につながります。

流産してしまう原因をつくっているリスク因子はいくつか考えられますが、まず母親の年齢が高くなると流産しやすくなる、という点には注意が必要です。

年齢との関連性は?

年齢と流産率との関係を見てみると、30代前半まではかなり低いですが、35歳になると20%、それ以降はぐんぐん上がり、40歳で40%、42歳でとうとう50%に達してしまいます。さらに42歳を超えると80~90%の割合で流産してしまうというデータもあります。

なぜ加齢とともに流産してしまう確率が上がるのかというと、女性の卵子の質が加齢とともに落ち、染色体に異常のある卵子が排出される割合が増えるからだと考えられています。これは精子にも言えることで、卵子ほど顕著ではありませんがこちらも加齢によって質が低下することがあります。

卵子や精子の染色体異常というこのリスク因子は、夫婦染色体異常と呼ばれ、不育症と診断された方々のなかで4.6%の人がこのリスク因子を持っています。割合で言えばそこまで多くはないように感じますが、他の病気と異なり加齢という絶対に避けられない変化が理由になるということはおぼえておきましょう。

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原因不明が多数を占める

不育症と診断された人のなかで、リスク因子が不明であり、不幸な偶然が重なって複数回の流産が起きてしまったと診断された人の割合は、65.3%にも及びます。全体の6割以上の人が、理由もなく、避けることも治療することもできない流産を経験しているのです。

原因がわかっているケース

不育症のリスク因子として一番パーセンテージが高いのは抗リン脂質抗体症候群にかかっていることと言われています。全体の10.2%の割合を占めており、抗リン脂質抗体症候群にくわえ、プロテインS・プロテインCの欠乏症や凝固因子異常として第XII因子欠乏症などが原因で血液がかたまりやすくなり血流が低下。血行が悪くなり、母体からおなかの赤ちゃんに栄養がうまく行き渡らず発育不全を起こして流産に至る場合があります。

これらの血行不良を起こすリスク因子のパーセンテージを全て合わせると25%となり、流産の原因としては一番多いものとなります。

その次に流産の理由として多いのは、子宮形態異常です。子宮のかたちそのものが奇形であったり、子宮筋腫や子宮頸管無力症、子宮腔癒着症などの病気に冒されている場合、受精卵の着床障害が起こり、流産につながります。

その他には、黄体機能不全、高プロラクチン血症、甲状腺の機能異常や糖尿病が理由でホルモンバランスが崩れが挙げられます。また、赤ちゃんの正常な成長を促せず、自己免疫疾患にかかっているせいで免疫の矛先が自分自身のからだはおなかのなかの赤ちゃんに向かってしまうこと、クラミジアなどの感染症が子宮頸管や子宮内に発生してしまうことなどが主なリスク因子としてあげられるものです。

しかし先ほど述べたとおり、これら全てのケースを合わせたよりも、明確な理由や原因のない流産のほうが多いのです。不育症という診断は2回以上の流産でくだされると説明しましたが、実際になんらかの病気などが原因で流産を繰り返してしまう人より、ただ偶発的に流産が続いてしまったという人のほうがずっと多いのです。

そういったリスク因子不明の流産の原因は、赤ちゃん自身の染色体異常です。これは両親のからだや精子、卵子の健康状態に左右されるものではなく、本当に偶然起こってしまうものなので、防いだり治療をしたりといったことができません。ですが、両親に悪いところがないため、特に治療をしないでもその後の妊娠では無事に出産できる可能性が高いです。

赤ちゃん自身の染色体異常ではなく、両親の病気などのリスク因子が原因で流産や死産を繰り返しているという場合には、医師の診断で何が原因かを調べ、じっくり治療していくことが重要です。妊娠する機能そのものに問題がなければ、治療がすすめば無事に出産できるようになっていくでしょう。また、リスク因子があるからといって必ず流産や死産になってしまうわけではないことも、念頭においておきましょう。

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不育症の検査について

流産や死産、新生児死亡が2回以上続いてしまったときには、不育症の検査を受けてみることをおすすめします

流産したというだけでは一体何が原因で流産・死産に至ってしまったのかがわかりません。先ほど説明したように、赤ちゃんの染色体異常などのどうしようもない理由だったのか、それとも他の病気の影響によるものだったのか、まずそれを調べる必要があります。

主に子宮に形を調べる画像診断と、血液検査の2つがあり、病院やクリニックによって検査方法は異なります。

主な不育症の検査方法

画像診断

子宮形態検査の他にも、3D経膣超音波検査、子宮鏡検査、MRIなどの方法がある。

子宮形態検査

子宮形態異常が原因の場合は、子宮のもともとのかたちが奇形なのか、子宮筋腫や子宮頸管無力症、子宮腔癒着症などの病気によって形態が変わっているのかによって治療の方向性も異なります。

子宮が奇形であっても、たいていの場合は必ず流産してしまうということはありません。特に治療をしないでいても、80%近い割合で無事な出産に至っています。

子宮筋腫などの病変による異常の場合には、手術による治療が必要になる場合がほとんどです。子宮奇形も治そうとすれば手術が必要になりますが、手術を受けるのとこのまま妊娠を続けていくのとではどちらがより無事な子どもを産むための近道か、医師とよく相談して決めることが大切です。手術には当然リスクが伴うものですので、じっくりカウンセリングを受けることをおすすめします。

血液検査

内分泌検査

甲状腺の機能異常や糖尿病、黄体機能不全や高プロラクチン血症など、内分泌代謝異常(ホルモンバランスの乱れ)が原因の場合は、不育症よりもまずこれらの病気の治療が最優先です。糖尿病など、治すというよりコントロールするというほうが正しい病気もありますが、食事療法や薬物療法を駆使してホルモンバランスをととのえてから妊娠するようにしましょう。食事はともかく薬を飲んで病気を治療、もしくはコントロールしながら妊娠・出産をしなければいけない場合には、当然ですが医師との相談の上、計画的な妊娠と投薬をするようにしましょう。

おなかのなかの赤ちゃんへはお母さんの食べたもの、飲んだものの影響がダイレクトにあらわれます。無事に元気な赤ちゃんを産めるよう、細心の注意を払って投薬治療を行いましょう。

夫婦染色体検査

赤ちゃんの染色体異常など、父親や母親の健康状態が理由ではないときでも、医師のカウンセリングを受けることは重要です。不育症の検査を受け、カウンセリングを行うことで、その後の妊娠成功率が高まるというデータもあります。医師の的確な説明を受けて安心して次の妊娠・出産にのぞめるというのが大きいのかも知れません。

また、夫婦染色体異常がリスク因子としてあげられるときも、根本的な治療法はないので基本的にはカウンセリングを行うのみになります。染色体のどの部分に異常があるかによっても出産の可能性や染色体異常が子どもに遺伝する確率は異なりますので、一体どの部分に異常があるのか、次の妊娠にチャレンジしてみる価値はあるかなどを医師と相談することが大切です。

夫婦染色体異常の場合、根本的な治療ができない分流産率は高いのですが、諦めずに妊娠を繰り返していれば最終的には無事に出産できる人が多いこともわかっています。夫婦のどちらかに染色体異常があったとしても、健康な赤ちゃんを出産できる確率が半分以下になることはないというデータもあることを考えると、諦めたり悲観したりするほどの確率ではないでしょう。

抗リン脂質抗体検査

血栓や流産を引き起こす抗リン脂質抗体の有無を調べます。ちなみに抗リン脂質抗体とは、リン脂質結合蛋白に対する抗体のことです。

血栓性素因検査

抗リン脂質抗体以外の血液凝固因子や第XII因子欠乏症をはじめとした病気のために、血液が凝固しやすくなり、血栓ができたり血行が悪くなったりする症状の治療のためには、血栓を溶かすアスピリンやヘパリン、ステロイドなどの薬を投与します。

治療成績は良好で、これらの薬物療法で血栓をなくし血流を良くすることで、胎児にきちんと栄養が行き届き、無事に健康な赤ちゃんを出産できるケースがたいへん多くなっています。このリスク因子が理由の不育症に関しても、医師による検査と正しい診断、詳しいカウンセリングと治療が必要なことがよくわかります。

先ほど説明したとおり、原因となる病気を全て合わせれば、この血栓ができることによる血行不良は染色体異常を除いたなかでは一番流産率の高いリスク因子です。

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主なリスク因子別の治療法

服薬や自己注射、手術などの選択肢があります。検査で異常が見つからない場合は、治療を行わずに経過をみることもあります。保険適用の項目も年々増えています。

子宮形態異常の治療方法と費用

子宮の内側の内部を隔てる壁(中隔)の手術が必要な場合、子宮形成手術で切除します。ただし、子宮の形に異常があったとしても必ず流産・死産するわけではないので、経過観察のみのケースもあります。

医療保険

適用

甲状腺など内分泌疾患の治療方法と費用

甲状腺の専門医の元、ホルモン治療を行いながら、計画的に妊娠を行います。

医療保険

適用

夫婦染色体異常の治療方法と費用

染色体転座は生まれつきなので、根本的な治療法はありません。

医療保険

遺伝カウンセリング、着床前診断は適用外

※関連記事:着床前診断のメリットや問題点は?

血液凝固異常の治療方法と費用

どの抗体が陽性になっているのかなどで、薬の内容や投薬期間が決まる。

医療保険

アスペリン、ヘパリンは一部適用

妊娠できるの?

自然と不育症患者全体の治療においてもこの薬物療法で対処することが多くなりますが、その結果の妊娠成功率はほとんどが80%前後と、高い割合を保っています。くわえて、受ける治療がカウンセリングだけでも、全体の80%ほどの人が流産を克服し、最終的には無事健康な赤ちゃんを出産しているというデータもあります。

不育症と診断され、特定のリスク因子がある場合にもそのほとんどのケースにおいて適切な治療法が用意されています。また、赤ちゃんや両親の染色体異常という場合には、治療法はないとしても、実は何度か妊娠を繰り返していればほぼ確実に健康な子どもを産むことができる程度の出産成功率は保てているのです。

流産というのは、母親にはもちろん、父親にとってもとてもつらいことです。いくら諦めずに妊娠していればいつかは健康な子どもを産めるとわかっていても、実際流産や死産、新生児死亡を繰り返した夫婦の心労と疲弊はひどいものでしょう。

からだの治療と同じかそれ以上に大切なのは、流産で疲弊した両親の精神面のケアだといわれています

ヨーロッパ生殖医学会の専門誌に掲載されている不育症の検査や治療についてのガイドラインにも、不育症に対する確立された治療法は、テンダー・ラビング・ケア、略してTLCだけだと書かれています。日本語に訳すと、優しく愛情を持って接する、というような意味になります。

ヨーロッパ生殖医学会:ESHRE

データの上では何度か妊娠を繰り返せば無事に子どもを産める確率が上がるとわかっていても、何度も流産を繰り返していれば心配になったりどうしても不安が拭えなかったりといった精神状態になるのも当然です。母親の不安定な精神状態の影響を一番に受けるのはやはりおなかの赤ちゃんですから、妊娠する前にある程度その不安や心配を取り除くか、もしくは乗り越えられるようなサポートが必要になるでしょう。

まとめ

不育症に対する正しい理解については医師が、その他の精神面についてはパートナーや周囲の人が、それぞれ支えていくことが重要です。

流産を繰り返し心身ともにすりへっている夫婦に一番必要なのは、周囲の人々からの理解といたわりなのかも知れません。