イクメンとは

子育ての話題になるとしばしば耳にする「イクメン」という言葉。「育児」と「メンズ」を組み合わせた造語で、父親として積極的に子育てに参加してくれる男性のことを指します。

もともとは、2010年、少子化対策の一環として厚生労働省が発足した「イクメンプロジェクト」というプロジェクトで提唱されたのがはじまりです。

公式サイトには「イクメンとは、子育てを楽しみ、自分自身も成長する男性のこと。または、将来そんな人生を送ろうと考えている男性のこと」とあります。

今現在父親である男性のみならず、今後子育てをしていくであろう未来の父親たちのことも「イクメン」という言葉の定義に含めるようです。

イクメンプロジェクト

なぜそれが少子化対策につながるのかというと、「イクメン」の存在が母親である女性たちの負担を軽減していくものだとされているからです。プロジェクトの概要説明には「イクメンがもっと多くなれば、妻である女性の生き方が、子どもたちの可能性が、家族のあり方が大きく変わっていくはず。そして社会全体も、もっと豊かに成長していくはずです」と書かれています。

メディアによる湾曲化

育児にもっと参加したいという男性のため育児休暇を取りやすくすることなどが具体的な推進ポイントではありますが、このプロジェクトが女性のためのものであることがよくわかる文章です。

そのためか、新聞やニュース、育児雑誌などでこの「イクメン」という言葉が使われるときには、「母親の育児の手伝いを積極的にする男性」というニュアンスが強いように見受けられます。

「男性も育児に参加することで、女性の働き方や家族のあり方の幅を広げる」という当初の目的からは、少しずれているようにも感じられます。

 

 

とはいえ、イクメンプロジェクトの概要を見てみると、育児に意欲的な男性をサポートすることがプロジェクトの骨子であることがよくわかります。

公式サイトによれば、現在、全体の約3割ほどの男性が育児休業の取得を希望しているそうですが、実際に育児休暇を取る男性は全体の2.30%にとどまっているそうです。制度自体の整備はすすんでいても、まだまだ日本の社会には男性が育児のために休暇を取るということが一般常識として浸透していないことがわかります。

そして、そのことが女性のキャリア形成や就業維持に悪影響を及ぼしがちな上、そもそも子どもを産むことを避けるようになってしまう、という悪循環につながっていく、というのです。

こういった生活基盤のせいか、日本の男性が家事や育児に参加する時間は他の先進国とくらべるとかなり少なく、最低水準ともいわれています。厚生労働省のイクメンプロジェクトでは、日本の男性の家事・育児への参加率を上げ、仕事と家庭の調和、ワーク・ライフ・バランスを実現させるべく、さまざまな試みが行われているのです。

イクメンという言葉の生まれるもととなった「イクメンプロジェクト」は、2009年の育児・介護休業法改正や、2010年6月30日に「パパ・ママ育休プラス」制度の導入などをはじめとする新制度が施行されたのを受けて発足されました。

「社会全体で、男性がもっと積極的に育児に関わることができる一大ムーブメントを巻き起こす」のがその目的のようです。実際、男性の育児休業を妨げているのは法整備というより社会全体の空気やこれまでの常識といった部分ですから、こうした活動で「育児や家事は女性がするもの」「男性は外で稼いでくるもの」といった常識や偏見をなくしていくのは理にかなったやり方のように感じられます。

男性の反応・女性の反応

それでは、厚生労働省の提唱する「イクメン」という新しい概念に対し、男性と女性はそれぞれどのような感想・意見を抱いているのでしょうか。

女性の反応

それまで育児や家事をほぼ一手に引き受けていた人が多いであろう女性側からは、やはり好意的な意見が目立ちました。そもそも育児に参加してくれる父親に対して嫌な気持ちになるということがまずないはずですからそれも当然といえば当然ですよね。

やはり子どもと思いきりからだを動かして遊んでくれるときには、男性の体力や身体能力の高さが大事な場面もあると実感するという人が多いようです。そういった父親ならではといったことに限らず、ゴミ出しや食事の片付けなど、簡単な家事をしてくれるだけでじゅうぶんに助かる、という意見もありました。

たしかにゴミ出しなどはちょっとした家事ではありますが、その一手間を担ってくれるだけでずいぶん楽になりますよね。

こういったやさしい意見だけではなく、女性が家事や育児をすることを当たり前だと思わないでほしい、といった「男性も手伝って当然」という意見も見られました。もちろん女性にばかり任せきりなのもよくありませんが、手伝ってもらうのが当たり前、という態度でいるよりも、常にお互いに感謝の気持ちを持っていたいですね。

男性の反応

男性側からは、育児や家事に参加するのは当然だという意見ももちろんありますが、どちらかといえば否定的・消極的な意見が目立ちました。

そういった意見は、大きく分けると「イクメン」という言葉が抽象的すぎて具体的に何をしたらよいのかよくわからない、仕事で帰宅時間が遅いので協力したくてもやれることが少ない、といった「手伝いたい気持ちはあるけれども知識や時間が気持ちに追いつかない」というタイプ。

また、「仕事に全力を注ぐのが父親であり、自分もそういう父親の姿を見て育った」という「育児や家事は女性がするもの」と考えているタイプの二種類に分かれるようです。

イクメンプロジェクトが意識改革のターゲットにしているのは後者のタイプの男性ですね。また、帰宅時間が遅くて協力することがあまりないという男性についても、育児休暇を取りやすくしていくことでしっかり家族との時間を取れるような支援を行っています。

ですが、「イクメン」になるためには具体的にどんなことをすればいいのか、という点についてはイクメンプロジェクトではカバーできていないように感じられます。

がんばっている奥さんを手伝いたいという気持ちがあっても、育児は初めて、家事もそれまであまりしてこなかったという男性にとってはなかなかハードルが高いでしょう。普段から自分にもできる家事などを見つけておき、女性がたいへんそうなときには率先して手伝ってあげる。こういったものが女性の思う「イクメン」像なのではないでしょうか。

育児をする男性は「イクメン」ではなく「父親」

例えば、男性自身は育児に参加している・奥さんを手伝っているというつもりでも、女性からすればそれは中途半端に手を出しているというふうにしか感じられない、ということはよくあります。赤ちゃんの夜泣きがひどいときに一度ばかり抱っこしてあげたり、たまに気が向いたときに洗い物をしてあげたり、そういったことだけでいい気分になっているような男性のことは、当然「イクメン」とは呼べません。

「イクメン」というのは、女性ばかりが家事や育児に時間をとられることなく、キャリア形成や職場復帰を男性と平等に行えるよう、女性の負担を多少なりとも軽減させるために協力してくれる男性のことを指します。 基本は女性に任せきりなのにもかかわらずたまに手伝うというだけでは、良い父親には近づけるかも知れませんが「イクメン」としては成立していないのです。

そもそも「イクメン」という言葉があるのがよくない、という意見を持っている人も男女問わずみられます。先ほども述べましたが、イクメンプロジェクト自体が結婚・妊娠・出産を経験した女性の生き方に現状よりももっと幅をもたせる、仕事と家庭との両立をしやすくするためのものであり、男性のワーク・ライフ・バランスについてはあまり考えられていないのではないか、というのがその理由のひとつです。

もちろん、必要であれば男性が育児休暇を取るのも自然なことだという認識が浸透し、制度で保障されている権利を行使しても問題ない社会にしていくことは大切です。しかし、今現在の「イクメン」という概念は、あまりに女性寄りなのではないでしょうか。

夫婦で一緒に行う家事や育児などについて、効率的に作業を割り振り、協力してこなしていくというかたちが一番の理想のはずです。ひとりが忙しければもうひとりが子どもの面倒を見るように、夫婦ふたりで力を合わせて子育てをしていければ、母親ひとりに負担がかたよることもありません。そして、父親が大したこともしていないのにイクメン気取りだ、などと女性に悪く言われることもなくなるでしょう。

「イクメン」という言葉のもつもともとの意味は、子どもをもっている女性の人生設計のあり方、ひいては家族全体のあり方を見直すため家事や育児に積極的に参加してくれる男性、もしくは実際に結婚し子どもが生まれたらそういう姿勢であろうと考えている男性のことです。

しかしニュースや雑誌などのメディアでは、「家事や育児に積極的な男性」という部分だけが一人歩きし、「男性は女性を手伝うのが当たり前」というニュアンスで使われることが増えてきています

女性ばかりが家事や育児の苦労を味わうのは不公平だ、男性もちゃんと平等にこの苦労を味わうべきである。というような論調は、本来の「イクメン」という言葉の概念からはずいぶんと離れてしまっています。「家事や育児は女性がするべき」という固定観念をなくそうというプロジェクトから生まれた言葉のはずが、「男性は女性を手伝うのが当然」というまた新たな固定観念を生んでいると言っても過言ではありません。

そもそも、役割分担というかたちで言うなら、いまだ根強く残る「男性が外で働き女性が育児を含めた家のことをする」という価値観もひとつの役割分担です。現代社会では女性も男性と同じように働くことが普通になっているにもかかわらず古い価値観がずっと残っていて不便なので、また新たな役割分担のかたちが必要になっているということなのです。

イクメンプロジェクトの本質とは?

つまり、イクメンプロジェクトでは、「夫婦二人そろって育児休暇を取って家族と過ごす」「父親は母親の仕事はなんでも手伝う」といったことを推奨しているわけではありません。

例えば母親が仕事をがんばりたいときには父親が育児に専念し、また逆に父親が仕事に励みたいときには母親がそれをサポートし家庭のことはあずかる、そういった役割分担をよりフレキシブルに行えるような制度や社会通念づくりを目指しているのです。

旦那さんに家事や育児を手伝ってほしいと思う女性もいれば、家のことはいいから仕事に打ち込んでほしい、と考える女性もいるでしょう。それぞれの家庭にぴったりのワーク・ライフ・バランスを目指せるよう努力してこその「イクメン」ではないでしょうか

また、父親と母親が同時期に育児休暇を取ってふたりとも仕事の量を減らした場合、ふたりのキャリア設計にはどうしても多少のゆるみが見られるでしょう。育児休暇を終えてからの働き方も見据えて考えると、多くの方が子どもを持つ20代、30代の若い方々の休職は、本人にとっても会社にとっても大きな損失にもなりかねません。

将来のことも考えれば、ふたりそろって育児休暇を取るのではなく、どちらが育児休暇を取ればより効率的に子育てと仕事の両立が可能か、という観点から育児休業するかどうかを決めるべきではないでしょうか

妊娠・出産後の女性の負担を減らし、女性の早めの職場復帰を目指すための「イクメン」ですが、本当に女性の人生の幅をより広げるためには、父親ひとりひとりの意識改革だけではなく、社会全体、企業や行政全体へのはたらきかけが重要なのです。父親の意識が変わればいいというのなら、生まれたばかりのあかちゃんたちを見るだけで父親の大半が一生懸命育児に参加しようと決意を新たにしているはずですから、女性の負担ばかりが大きい現状はとっくに打破されているでしょう。

父親の意識を変えるのにもっとも影響力が強いのは、子どもの姿、そしてその子を育てている母親の姿です。「イクメン」という新しい概念を与えられずとも、ちゃんと家族のことを思いやれる男性は子どもと母親両方のケアをきちんとこなしていますし、それができていない男性はいくら「イクメン」という言葉で強要されても女性に家庭を任せきりにしてしまうのではないでしょうか。

女性にばかり任せるのではなく自分も一緒にがんばろう、という意識の変化はそれぞれのうちから自然と起こるものであり、他人に強要されたからといってすぐに変われるわけではありません

また、「イクメン」という言葉はやわらかい語感でありながら、未婚の男性にも育児の大変さや厳しさを過剰に教え込むものではないでしょうか。実際に父親になる前から大変な部分、気をつけなければならない部分ばかりを強調されていたのでは、是非とも子どもを持ちたいという気持ちにはなかなかならないでしょう。少子化対策の一貫としてのプロジェクトとしては詰めが甘いようにも思えます。

育児に積極的に参加する男性、子どもや家族のためにがんばってくれる男性は、もちろんイクメンでもあるのですが、その前にひとりの立派な「父親」です

「イクメン」という単語は便利で使いやすいものではありますが、新しい造語に振り回されすぎず、それぞれの家庭・パートナーにしっくりくる「父親」を目指していくのが一番いいのかも知れませんね。